マスタリングは音楽制作の最終工程。ミックスが終わった2mixデータ(ステレオ音源)に最終的な音質調整と音圧アップを行い、配信やCDに出せる状態にする作業です。料理に例えるなら、ミックスが「調理」でマスタリングが「盛り付けと最後の味付け」。見栄え(聴き栄え)を整えて、お客さんに出せる状態にする最後のひと手間です。
「マスタリングって何をすればいいか分からない」「プロに頼まないとダメ?」と思っている人も多いですが、趣味レベルの楽曲なら自宅のDAWだけで十分に仕上げられます。今回はセルフマスタリングの具体的なやり方を手順ごとに解説していきます。

マスタリングで具体的に何をするのか
EQ調整:全体の周波数バランスを整える。低音が多すぎないか、高音がキツくないかを微調整する。
コンプレッション:全体のダイナミクスを揃えて、聴きやすい音量感にする。音量差を自然に整える。
リミッティング(音圧調整):最終的な音圧を上げる。配信プラットフォームの基準に合わせた音量感に仕上げる。
最終チェック:音割れがないか、バランスは崩れていないかを複数環境で確認して書き出す。
これらの処理を順番にかけていく一連の流れを「マスタリングチェーン」と呼びます。DAWに最初から付属しているプラグインだけでも、この流れは十分に実現できます。
マスタリング前の準備:これだけは確認しよう
ミックスデータの書き出し方
ミックスが完成したら、WAV形式で書き出します。ビット深度は24bit以上、サンプルレートは制作時のままが基本です。書き出し時にマスターバスにリミッターやコンプがかかっていないか確認すること。ミックスの段階ではマスターバスはクリーンな状態にしておくのが鉄則です。
リファレンス曲を用意する
同じジャンルのプロの楽曲を1〜2曲、リファレンス(お手本)として用意しましょう。自分の曲と交互に聴き比べながら調整することで、客観的な判断ができます。リファレンス曲なしのマスタリングは、鏡を見ずに化粧するようなものです。
新しいプロジェクトを作る
マスタリングはミックスとは必ず別プロジェクトで行うのが基本ルール。ミックスのプロジェクトでそのままマスタリングを始めると、ミックスに戻りたくなったときに混乱します。
マスタリングの手順(5ステップ)
ステップ1:ミックスデータを確認する
書き出したミックスデータを新しいDAWプロジェクトに読み込み、まずは何もプラグインをかけずに全体を通して聴きます。リファレンス曲と聴き比べて「何が違うか」をメモしておきましょう。
よくある気づきポイントは「低音が多すぎる/少なすぎる」「高音がキツい/曇っている」「音圧が足りない」「全体的にモヤッとしている」など。ここで感じた違和感を、後の工程で修正していきます。
ステップ2:EQで全体のバランスを微調整
リファレンス曲と聴き比べながら、全体の周波数バランスを整えます。マスタリングEQの基本は「微調整」。ブースト・カットは±2dB以内が目安です。それ以上大きく変える必要がある場合は、ミックスに戻ってやり直した方が結果的に良い仕上がりになります。
よく行う処理の例:
・30Hz以下をハイパスフィルターでカット(不要な超低音を除去)
・200〜300Hz付近を軽くカット(モワモワした感じを解消)
・8kHz〜12kHz付近を軽くブースト(空気感・煌びやかさを加える)
ステップ3:コンプレッサーで軽く整える
マルチバンドコンプレッサーまたは通常のコンプで、音量のバラつきを軽く抑えます。ゲインリダクション1〜3dB程度が目安。かけすぎると音の躍動感が失われて「死んだ音」になります。
コンプの設定目安:
・レシオ:2:1〜4:1(軽め)
・アタック:10〜30ms(速すぎるとトランジェントが潰れる)
・リリース:100〜300ms(曲のテンポに合わせて調整)

ステップ4:リミッターで音圧を上げる
マスタリングの最重要ポイントです。リミッターのシーリング(天井)を-0.3dB〜-1.0dBに設定し、インプットゲインを少しずつ上げていきます。
音が潰れない範囲で音圧を稼ぐのがコツ。リファレンス曲と比較しながら、自然に聴こえる音圧を探します。
配信プラットフォームのラウドネス基準:
・Spotify:約-14 LUFS
・Apple Music:約-16 LUFS
・YouTube:約-14 LUFS
配信メインなら-14 LUFS前後を目指すのが無難です。この基準に合わせておけば、再生時に音量が自動調整されても自然に聴こえます。音圧を上げすぎると、プラットフォーム側で音量を下げられてかえって不自然な音になることもあります。
ステップ5:書き出しと最終確認
書き出しフォーマットの目安:
・CD用:WAV 44.1kHz/16bit
・配信用:WAV 48kHz/24bit
・ストリーミング用:最終的にMP3やAAC等に変換されるが、マスタリング段階ではWAVで書き出しておく
書き出したら、必ず複数の環境で確認すること。モニターヘッドホン、スピーカー、イヤホン、スマホのスピーカー、カーステレオなど。環境によって聴こえ方が変わるので、どの環境でも破綻しないバランスになっているか確認します。
自宅マスタリングでよくある失敗と対策
音圧を上げすぎる:音割れ・歪みの原因。「もっと大きく」という欲に負けずにリファレンス曲と比較して適切な音量に留める。
EQをいじりすぎる:マスタリングEQは微調整が基本。大幅な変更はミックスでやるべき作業。
モニター環境が悪い:安いスピーカーだと低音が聴こえにくく、低音を盛りすぎてしまう。モニターヘッドホン(SONY MDR-CD900STやAudio-Technica ATH-M50xなど)を使うと判断精度が上がる。
長時間作業する:耳が疲れると判断がブレる。30分〜1時間で休憩を挟む。
リファレンスなしで進める:自分の耳だけを信じると独りよがりな音になりがち。必ずプロの曲と比較する。
おすすめのマスタリングツール
DAW付属プラグイン
まずはDAWに最初から入っているEQ・コンプ・リミッターで十分です。物足りなくなった工程から専用ツールを追加していくのが、ムダのない買い方です。
iZotope Ozone
AI搭載のマスタリングプラグインとして定番中の定番。AIアシスタント機能がリファレンス曲を解析して、自動でマスタリングチェーンを提案してくれます。初心者から上級者まで幅広く使われています。詳しくはiZotope公式サイトで確認できます。
LANDR(オンラインマスタリング)
音源をアップロードするだけでAIが自動マスタリングしてくれるサービスです。「とりあえず聴ける状態にしたい」という場合に手軽に使えます。LANDR公式サイトから利用可能です。

よくある質問
Q. マスタリングは自分でやるべき?プロに頼むべき?
A. 趣味レベルならセルフマスタリングで十分です。プロレベルのクオリティを求めるなら、専門のマスタリングエンジニアに依頼するのも手です。1曲5,000〜20,000円程度が相場で、自分の耳では気づけない問題点を修正してくれます。
Q. マスタリングとミックスの違いは?
A. ミックスは各パート(ドラム、ベース、ボーカル等)を個別に調整する作業。マスタリングはミックス済みの2mix全体を調整する作業です。ミックスで各パートの音量・EQ・定位を整え、マスタリングで全体の音質と音圧を最終調整します。
Q. マスタリングにどのくらい時間がかかる?
A. 慣れれば1曲15〜30分程度。ただし耳が疲れると判断がブレるので、複数曲のマスタリングをまとめて行う場合は休憩を挟みながら作業しましょう。
Q. モニターヘッドホンとリスニング用ヘッドホンの違いは?
A. モニターヘッドホンは原音に忠実な音を出すように設計されています。リスニング用は低音や高音を強調して「聴いて気持ちいい音」に味付けされていることが多く、マスタリングの判断材料としては不向きです。
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マスタリングの基礎をさらに深く学ぶならSleepfreaksの解説記事が体系的で分かりやすいです。プラグインの購入はサウンドハウスが品揃え豊富で価格比較にも便利です。
マスタリングの費用:プロに依頼する場合
セルフマスタリングに限界を感じたら、プロのマスタリングエンジニアに依頼する選択肢もあります。費用の相場は以下の通りです。
・個人エンジニア:1曲5,000〜10,000円
・スタジオ所属エンジニア:1曲10,000〜20,000円
・AIマスタリングサービス(LANDR等):月額制で使い放題プランもあり
趣味レベルなら自分でやる方がスキルも身につくし、コストもかかりません。ただし「コンテストに出す」「配信で勝負する」など本気の場面では、プロの耳を借りる価値は十分にあります。
まとめ:ミックスが良ければマスタリングは最後の味付けでOK
マスタリングの基本はEQの微調整、コンプでの軽い整え、リミッターでの音圧アップ。この3ステップが核です。ミックスの段階でしっかり仕上がっていれば、マスタリングは最後の味付け程度で十分。まずはDAW付属のプラグインとリファレンス曲を用意して、実際にやってみることから始めましょう。やればやるほど耳が育って、音の違いが分かるようになります。


